俺だったら、惚れた相手から離れない。
どんな理由があろうと一生ついていく。
 
 
「けど、あいつのやり方なんだろうな。
セラのことを想って戦って、あいつの一番の愛し方。
傍にいてくれなくても、悲しんじゃいけない...ってことか。セラ」
 
 

ノエルはそう思いながらも口に出さず、セラを連れてサンレス水郷を後にした。
 
 
 
 
 
涙。
サンレス跡にした日から、朝起きると連日目を真っ赤にして
セラがあやまる。
俺の少なからず見え隠れしていた動揺に気がついたみたいだ。
 
「・・・・・。ごめん。」

「精神が不安定だと生死にかかわる。
次はアルカキルティだ。
まだ行くのやめて置こう。」
 
「ノエル・・・。」
(駄目だ。ノエルに気を使わせてる、私。
 スノウのことは私が守るって決めたのにどうして強くなれないの・・
 おねぇちゃん・・・)
 
 
 
 
暫くヤシャス山を歩いた後、突如ノエルが口を開いた。

「決まった?今日の夕食?」
 
「え?」
 
「楽しみなんだよな〜!
こっちきてからというもの、食ったことないもんばかりでさ。
そりゃぁ、狩たての肉にはかなわないけどさ、食は文明あってこそだよな!」
 
「またホープ君にご馳走になっちゃおっか?」
 
「あれも旨かったけど、今日の昼飯も上等だったぜ!」
「お好み焼きのこと??

屋台だよ。」
 
「屋台っていうの?お好み焼きじゃなく?」
 
「あ、お好み焼きなんだけど、屋台はね、ん〜。なんて言うのかなぁ、安いの。」

「そうなんだ?すげぇ旨かったんだけど。
安いんなら尚更好きになりそうだ。」
 
「うふふ。」
 
「うん!いい笑顔。
その笑顔なら大抵の屋台のおじさんはころっといくぜ。安いもんが更に安く買えて一石二鳥!」
 
「もう!!」
 

ノエルと居ると楽しい。
こんな旅に出ているのに私、不謹慎かな?・・・。

そう、今は前だけ見てスノウの事考えちゃいけない。
おねぇちゃんが導いてくれると信じて。
すべてがうまくいけばお姉ちゃんもスノウも帰ってくる。
そうすればすべて解決する。

セラはそう自分に言い聞かせ、ノエルの手をひいて歩き出した。
 
 

 
 
「セラ〜。もう駄目だって。もうおしまい。」
「なにょう〜。ニョエルひゃ、お酒飲んじゃらめなんらよ〜。みへいねんなんらから〜。」
 
アルカキルティに入り、いくつか事件を解決させているうちにノエルとセラ、
集落は二人の事を家族のように出迎えてくれるようになっていた。

宿も当然世話してくれるし、夕飯も招待されることもしばしば。
金のない二人にとって、ここはとてもありがたい場所であった。
 
ただ問題は、皆が二人を恋人同士だと思っているらしく、
何故なら最初部屋を貸してくれると提案された時に2部屋も悪いと遠慮して
1部屋借りたのがことの始まりだったのだ。
 
以来、集落に訪れる度に「今日も熱いね」だの「子供はまだ?」だの聞かれる始末。
その度にセラは顔をあからめるのだが、年下のノエルは落ち着いていてなんだか申し訳ない気分になってしまう。
 
 
「よう!!綺麗な顔したネェちゃんとニイちゃん!のんでるかーーーーーーー!!!」
 
「そ〜なのよねぇええ。未来の人類だけあって顔も進化してるんらよぉおおお!ノエルは♪」

「セラ、飲みすぎだって」
 
「おおおお〜!!ネェちゃん久しぶりに飲んでんな!!!ここは安心だからよ。・・・・ってニイちゃんが安心じゃねぇか」
 
にやりと笑う住民に愛想笑いを返しながらもノエルはセラを立たせ、部屋に引き上げていった。
 
 
 
 

アルカキルティの集落はノエルを安心させる。

湿った土の匂い。

産まれた時から、かいでいた匂いだ。
 
「でもここは・・違うんだよな・・。」
 

ひとつしかないベッドにセラを寝かせ、壁のソファーに体を預けた。

モーグリはこういう時決まって現れない。

「スノウ・・・」

ベッドの上のセラが呟いた。
 
何回聞いたことだろう。野宿の夜。疲れて倒れた日。決まってセラはスノウの名前を呼んだ。
自分もそうだったから、セラの気持ちは痛いほど分かる。
 
 

セラとスノウ。

最初は生きているのに、想いあっているのにと何度も思った。苛立った。

 
自分とユールはお互いの気持ちを確認する前に離れ離れになったから。

恋人同士であるセラとスノウの行動に矛盾を覚えた気持ちでいっぱいだった。
 
でもそのうち、だんだんとセラを見ているうちに、お互い好きでもどうしようにもならない事があるんだと感じるようになった。
 
 
例え寝顔であっても、セラがスノウと口走る時の表情は、何時もの楽しそうなセラからは想像も出来ない不安そうなものだったから

ノエルはあえて見ないようにしていた。
 
だから気がつかなかった。

暗闇に目が慣れて部屋が昼ほどに見渡せるようになったとき、セラがこっちを見ていることに。
 

「ノエル・・。起きてるの?」
 
「酔いは覚めたのか?」
 
「酔ってないよ。酔いたかっただけ・・。」
 
「うん。いいんじゃないか。」
 
 

「ねぇ・・。ここの人達ってすごく暖かいよね。最初はすごく冷たく感じたけど。」
 
「狩をして暮らしている。死と隣り合わせだからな。」

「そうだね。ノエルは賢いね。」

「からかうなって」
 
「からかってない。  ねぇ、ここの人たちが言うように私たち本当の恋人になっちゃおうか?」
 
 
・・・。やっぱり酔ってるな。
 
 
「セラが寝るまで俺、外に出てるから」

「いかないで!!」
 
「セラ?」
 
「逃げないで・・・逃げるんだ・・私の前からっ・・・・た・・・大切な人は
みんないなくなっ・・ちゃう・・。
スノウもおねぇちゃんも・・私を守ってくれた人たちも・・ノエルだって・・・
わたし・・嫌なの。
ひとりぼっちは・・・いやなの・・・・ノエ・・・」
 

セラが突如泣き出し、声が室内に響き渡った。
 
 
「・・セラ。落ち着いてセラ。誰もセラをひとりぼっちにしないよ。」

「ノ・・」

「仮に今、ひとりぼっちだと感じていてもそれを取り戻す為に俺たち、旅をしているんだろ?」
 

セラは目の前のノエルが小さく下を向いたのを見て自分が言ったことにとっさに後悔した。
 
 
「ごめっ・・・・ノエル。・・・」
 
 
セラは赤面した。
体がドクンと大きく波打った。
悪寒が一瞬に走った。
私はなんてことを言ってしまったんだろう・・
よりによってノエルに。
孤独を誰よりも知っている人に。

こんな私だからみんないなくなるんだ。
 
 
 

「泣くなって。セラ。」
 

目の前が真っ暗になった。
ノエルの胸が泣きじゃくるセラを包み込み、木で組みこまれたベッドがぐっと沈んだ。
二人の影がベッドの中でひとつになる。

「泣かせたくない。もう泣くな」
 
そう言うと同時に涙で濡れたセラの唇にノエルは自分の唇を押し付けた。
 
体が熱に犯されてゆく。かろうじてあった理性がなくなっていく。
 
 
細いセラの手首を両手で掴みベッドに押し付けて何度も何度も唇を重ねる。
 
角度を変える度にセラの胸が自分の体にあたり、ノエル自身の熱を帯びてゆく。

こうなったらもう止められない。
 
セラの体も汗で湿り、吐息に熱がこもってゆく。
 
と同時に涙がとめどなく流れノエルの頬を伝った。
 
 
 
「セラが泣き止むまで離れない。」
 
 
 
 
 
静まり返った部屋に二人の重なる音が明け方まで鳴り響いた。
 
 
 
 
 
 

 

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